採用活動にマーケティングの考え方を応用することが主流となった今、その出発点である「採用ペルソナ」の設計は避けては通れません。
元採用担当としての経験の中でも、もっと早く知っておけばよかった事・ナンバーワンの「ペルソナ設計」について、作り方と活用方法をわかりやすく説明します。
採用ペルソナの設計とは?採用活動に欠かせない理由
「ペルソナ」とは、マーケティング世界の用語で、理想の顧客像を具体的な人物として肉付けしたものを指します。
仮の性別、年齢、居住地域、職業、家族構成、年収といった基本データに加え、性格、ライフスタイル、興味関心、個人的な悩み、価値観、消費行動など、あたかも実在する個人のように詳細に設定するのが特徴です。
「ペルソナ設計」とは、ペルソナを立てて、その人物へ向けてマーケティング戦略を立案する手法です。採用活動に「採用ペルソナ」の設計がなぜ必要か、主な理由を3つ上げます。
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理由1:ペルソナ設計によって採用戦略に軸ができる
採用活動を行う上で、通常最低限決まっているのは採用したい人物のスペックではないでしょうか。中途採用であれば年齢・経験・資格・スキル・実績等ですね。
次に採用ターゲットを決めて、採用戦略を立てている場合もあるかもしれません。ターゲットは採用したい人物がいそうな「層」です。「20代後半、女性、独身、美容業界」などです。その層に向けた求人媒体選びや採用広報を展開していると思います。
しかし、採用ペルソナまで設計している企業はそんなに多くないかもしれません。
採用ペルソナはターゲットの中の具体的な個人を、本当にいる人のように肉付けして想定します。そうすることでペルソナにパーソナリティが付加され、採用したい人物像が具体的に言語化され、社内で「こんな人がいいよね」と共有することができます。
ペルソナ設計を行うことで採用戦略に一本の軸ができ、ペルソナに刺さるかどうかで採用に関わる各種判断ができるようになります。
理由2:ペルソナ設計によって求職者目線で思考できる
採用活動は、採用マーケティングの考え方の導入によって大きく変わりました。
マーケティングではまずは顧客や需要ファーストの考え方をします。
ペルソナの設計によって顧客への理解を深め、ニーズを正しく把握し、適切なメッセージを送る手法が「ペルソナマーケティング」です。
採用市場が企業側に有利だった時代は、企業が発信したい情報を、定型フォームで、一定の媒体で発信すれば求職者の方が動いて企業の求人情報を発見してくれました。
しかし今は、求職者および潜在的候補者へ企業側が働きかけなければならない時代です。企業側が求職者の理解に努め、ニーズや志向を把握し、適切な媒体で正しいコミュニケーションを取る必要があります。
採用ペルソナを設計し、常にそのペルソナ視点で思考し、採用戦略を構築する。また、ペルソナ目線で継続的に採用プロセスの一つ一つを見直すことが、現代の採用活動のキーポイントと言えます。
理由3:ペルソナ設計によって求職者にアクションを促すことができる
ペルソナ設計は、採用活動に反映させることで、求職者の行動に強い影響を与えます。
採用ペルソナに基づいた採用プロセスでは、求職者に一貫性・ストーリー性のある選考体験を与えられるためです。
・採用メッセージをペルソナに響くように設定
・求人情報をペルソナが利用しそうな媒体に掲載
・各種コンテンツをペルソナのニーズに合わせて発信
「この会社が欲しいのは自分だ」「この環境なら活躍できる」「働く自分が想像できる」と求職者に共感してもらえれば、求人に応募してもらえる確率も上がり、エンゲージメントも高まります。
納得感のある採用活動をしたいならペルソナ設計が重要
実は「ペルソナ設計」で何より得をするのは、採用担当者といっても過言ではありません。
私が採用ペルソナをもっと早く作っておけばよかった…と思ったのは、新卒採用を開始して3年が経った頃でした。採用ペルソナを作る前は、採用活動に協力してくれる社内メンバーと経営層で「内心欲しい社員」の像が違っていたのです。
経営層は「いろんな店舗で研鑽させたい(=転勤OKの人がいい)」、現場社員は「現場で即戦力になる人がいい(=転勤NGでもいい)」など。事前の経営陣と現場マネージャーへのヒアリングで応募要項には「転勤あり」と書いてありますが、経営陣と現場マネージャーではその要件の優先順位が異なりました。さらに、実際の求職者の希望は「できれば転勤したくない」だったりします。そのため、現場マネージャー一押しの候補者が経営陣の最終面接で不合格になることもありました。
ペルソナ設計をする過程では、採用関係者の意識合わせを行います。また、作りこんだペルソナを共有し、採用プロセス上の主観による判断も起きにくくなります。
母集団形成から最終面接まで、長いプロセスを経て行う採用活動だからこそ、活動に軸を持って、納得感のある活動をしたいですよね。
採用戦略に活かせる採用ペルソナの作り方
採用ペルソナの作り方 1. 採用ポジション・採用目的を確認する
採用ペルソナは、採用ポジション・採用職種ごとに作る必要があります。
おなじ新卒採用でも、総合職採用と専門職採用ではターゲットは同じでも、採用ペルソナは変わってきます。
また、同じポジションであったとしても、欠員補充で即戦力のマンパワーを採用したいのか、ポテンシャル重視のリーダー候補を採用するのか、という「採用目的」でもペルソナは異なってきます。
欲しい人材のタイプが複数あるなら、複数のペルソナを作りましょう。いずれにしても、これから作るペルソナの採用ポジション・採用目的は「わかったつもり」にならないために、言語化するのがコツです。
採用ペルソナの作り方 2. どんな人に応募してもらいたいか要件だしをする
採用目的・ポジションに沿って、どんな人に応募してもらいたいかを思いつくまま、できる限り具体的に要件出ししていきます。ペルソナ作成にルールはありませんが、以下3つの面を意識すると要件だしがしやすいでしょう。
①定量的な情報や能力要件
年齢、学歴、経歴、スキル、保有資格、実績、得意分野(例:対人折衝が得意)など
②価値観や人柄、志向性
会社や仕事に求めること、将来のキャリアプラン、どんな職場環境を好むか、不得意分野など
③行動特性の想定
どんなキーワードが好きそうか、仕事以外は何をしているか、併願しそうな企業、求職活動の進め方、情報収集元、所属コミュニティなど
そのポジションにハマりそうな実在の友人や、そのポジションで活躍している社員を例にしてもいいでしょう。要件だしは複数人で行うと偏りが少なくなります。
採用ペルソナの作り方 3. ペルソナ化
出てきた要件(特に定量的なカテゴリ)に優先順位をつけます。優先順位には、MUST(これがなければ採用しない)、WANT(あったらプラス)があるといいでしょう。その際、設定した要件が本当にMUSTか、ポジションに対しオーバースペックになっていないかなども客観的に確認します。
その要件表を見ながら、具体的な人として想定するために、パーソナリティの肉付けをしていきます。プライベートや家族構成、生活スタイル、将来への思い、悩み、転職や就職への思いなどを想定してみましょう。
<ペルソナ例>
28歳。経理部署での経験が3年以上、簿記2級以上を持っている。取引先や社内の他の課とのやりとりも多いので、人当たりがよく、コミュニケーション能力がある人。仕事と家庭を両立したい女性もしくは男性で、現在の勤め先は恒常的な残業が多く、ワークライフバランスを重視している職場に転職したい。たまの残業なら対応可能。情報収集はスマホで、ニュースアプリを利用したり、Twitterをみる。既婚で、休日は家族と過ごす。お酒はあまり飲まない。堅実な性格。小さくても経営方針に共感できたら、少人数の職場でもいい。長く勤められる職場環境を好む。企業の経理ポジションの他に、個人の会計事務所なども検討している。
採用ペルソナの作り方 4. 複数人の目で検証する
ペルソナができたら、現実的にありえる設定になっているかどうか、複数人の目で確認します。また、経営層や現場マネージャーにも意見をもらい、採用ペルソナに対する認識の齟齬がないかすり合わせを行いましょう。
採用ペルソナの作り方 5. 採用市場に合わせて微修正する
最後に、ペルソナを現在の採用市場に照らし合わせて、微修正します。
採用市場は一年でもトレンドが変わります。また、法改正などによって労働価値観もどんどん変わってきています。
「少し前ならこういう学生いたんだけど…」
「コロナ前はこういうペルソナで応募者が来ていたのに…」
とならないように、採用案件ごとにペルソナの要件定義を毎回見直し、要件の絞り込み・優先順位づけをしなおしましょう。
また、自社の提示する給与や福利厚生が採用ペルソナにアピールできるものかどうか、競合他社の求人情報などをリサーチして確認しましょう。
設計したペルソナを採用プロセスに取り入れる方法
採用ペルソナができたら、採用戦略に活かしていきましょう。
採用ペルソナをチームで共有する
まず、採用に関わる人全員に言語化した採用ペルソナを共有します。採用チーム内、リクルーター、面接官、経営陣、広報担当者など、関係者で「採用したい具体的な人物像」を共通認識にします。
そうすることで、採用プロセス全体で一貫した採用メッセージ・ストーリーを発信でき、採用ペルソナに近い求職者に会える可能性が高まります。
設計したペルソナを採用プロセス(採用ブランディング)に反映する
採用ブランディングは採用市場における他社との差別化です。採用ペルソナが明確になっていれば、ペルソナが重視する点に絞った差別化のメッセージ・コンテンツを作成することができます。
ペルソナの「就職・転職に掛ける思い」が「若いうちからマネジメントの経験を積みたい」・「実力評価で管理職を任せてもらいたい」であれば、自社の若手管理職の平均年齢やマネージャーになる具体的なステップ、事例紹介などを行うことができます。
設計したペルソナを採用プロセス(母集団形成)に反映する
求人媒体、採用サイト、SNS、ダイレクトリクルーティング、逆スカウトなど、母集団形成のチャネルは多様になりました。
しかし、採用ペルソナがあれば、下記のような検討をすることで、求人媒体、募集要項の書き方、採用サイトのコンテンツ、オファーメールの文面などを求職者目線で検討できます。
「採用ペルソナの◯◯さんなら」
・就職・転職活動ではどんなメディアを見そうか?
・募集要項で必ず確認したいことは?
・どんな採用メッセージが響くだろう?
・どんな採用サイトのコンテンツが興味を惹くか?
・どんな点を不安に思う/疑問に思うか?
同じポジションで採用ペルソナが複数ある場合は、メインの採用ペルソナとサブの採用ペルソナを決め、メインの採用ペルソナ向けに設計しつつも、サブにも届くコンテンツを発信します。
設計したペルソナを採用プロセス(選考)に反映する
ペルソナ設計により、選考過程も改善できます。
設計したペルソナに近い人物に「自社が採用したいのはあなたです」というメッセージを伝えつつ、最終面接まできてもらうための選考過程を工夫しましょう。
面接においても、ペルソナが言語化されていることで評価基準が明確となり、面接官の主観による判断を防ぐ効果があります。
採用ペルソナの設計は見直しとアップデートを忘れずに
採用活動がひと段落したら、結果を踏まえて振り返りを
採用活動の終了後は、設計したペルソナについてもよかった点・改善点の振り返りをしましょう。振り返りでは下記の点を確認して次回に活かせるようにしておきましょう。
- 採用プロセス「◯◯」に適切に反映できていたか?
- 設計の細かさは適切だったか?
- オーバースペックになっていなかったか?
- 必要な数のペルソナが作れていたか?
- 自社やポジションとあった設計になっていたか?
- 採用市場に存在するペルソナだったか?
まとめ:採用マーケティングの基本はペルソナ設計
採用マーケティングの重要概念「ペルソナ」の設計についてまとめました。
ペルソナを作り、関係者に周知することで、採用プロセス全体に筋が通ります。採用活動の成否も検証しやすくなり、採用担当者は安心して採用活動を推進することができます。
一方、適切なペルソナができたとして、自社のリソースだけではその層へ効果的にリーチするノウハウや媒体運用に課題がある場合もあるかもしれません。どんな媒体で、どのようにアプローチすべきかを検討するには、データやその業界での知見があるといいでしょう。
貴社の採用ペルソナが存在する媒体に向かって最適なマーケティングを進めるのなら、ノウハウを持つ外部サービスを活用するのも一つの手です。