「派遣社員は定着しないというのは本当か?」
「派遣の定着率は改善できるのか?」
そのような疑問をお持ちではないでしょうか。
派遣会社にとって、自社が派遣した人材が派遣先で問題なく定着し、長期間働いてもらうことは重要なことです。しかし、多くの会社が派遣社員の派遣先での定着率に悩んでいるのも実情です。
本記事ではいくつかのデータを用いて、派遣定着率の実態と影響、改善策について説明します。
- 派遣定着率が低いと言われる理由は派遣社員特有の課題が背景にある
- 派遣定着率は原因を特定したアプローチで改善できる
- 派遣定着率の改善で得られるメリットは3つある
派遣定着率の実態
定着率の定義
「定着率」とは、入社した者が期間を経てどのくらい離職せずに勤務を続けているかを指します。離職率と表裏一体の関係にあり、離職者に注目した数字が離職率、離職せずに残っている者に注目した数字が定着率とされています。
ただし、定着率の計算方法には明確な定義がありません。一般的に公表されているものの多くは「(正社員の)入社◯年後の定着率」で、当該年次に採用した社員が◯年後に何%残っているかを示したものです。
派遣定着率に関するデータ
インターネット上では、派遣定着率を統計的に調査・公表したものは見かけません。そこで、派遣定着率そのものではありませんが、関連するデータを使って派遣社員の働き方の実態を見てみましょう。
派遣社員の7割は労働移動率の高い有期雇用契約
日本人材派遣協会の調査によれば、派遣社員の約7割が、有期雇用契約つまり「雇用期間に定めのある」契約に基づいて働いています。
厚生労働省の雇用動向調査からは「雇用期間の定めあり」の労働者の離職率は「雇用期間の定めなし」に比べ、平均で2.36倍(男性で3.01倍、女性で1.87倍)高いという結果が読み取れます。
つまり、有期雇用契約で働く人が多い派遣社員は、正社員や無期雇用の労働者に比べて2倍から3倍の人が労働移動(離職・転職)しやすい傾向にあると言えるでしょう。
参考:
一般社団法人日本人材派遣協会|派遣社員WEBアンケート調査 2021年
厚生労働省|令和3年雇用動向調査結果の概要>付属統計表1-2 常用労働者の移動状況(率)
派遣社員の希望の働き方は4年後には正社員
日本人材派遣協会のアンケートによれば、有期雇用契約で働く派遣社員が希望する働き方は、下記の通りです。
今後1年以内:派遣社員希望者が41.2%、正社員希望者が34.4%
今後4年目以降:派遣社員希望者が26.6%、正社員希望者が42.1%
有期雇用契約で働く派遣社員は、今現在は派遣社員として仕事をしたいが、4年後は正社員になっていたい割合が多いことがわかります。
派遣契約の中途解除割合は平均で14%
次に、厚生労働省が2017年に実施した「派遣労働者実態調査」から、派遣契約の中途解除についてのデータをみてみましょう。
この調査によると、過去1年間で労働者派遣契約を途中で終了したことがある派遣先は平均で14%でした。また、派遣の就労人数が多いほど中途解除があった確率が高く、派遣社員が100人を超える派遣先では45.5%で中途解除があったと回答しています。
また、中途解除の理由は、「派遣労働者の勤務状況に問題があった」が49.6%、「派遣労働者の技術・技能に問題があった」が44.6%で、2大原因となっています。
勤務不良やスキル不足は、派遣契約を複数回更新した後に発覚するというより、初回の派遣契約中に問題となり契約中断に至ると考えられます。つまり、派遣社員の早期離職の多くはこの2つを直接の原因として起こると言えるでしょう。
参考:平成29年派遣労働者実態調査の概況 事業所調査|厚生労働省
多くの派遣社員は悩みを抱えながら就労している
en派遣の実施している派遣社員へのアンケートでは、派遣社員の81%が仕事について悩みを抱えていることがわかっています。悩みの種類は、「給与・待遇」が最も多く41%、「仕事内容」の27%と「雇用の安定性」の26%が後に続く結果でした。
「給与・待遇」についての具体的な悩みは「仕事を認められても給与に反映されない」、「仕事内容」については「誰でもできるような仕事に感じ、スキルアップ感がないので不安」という、派遣社員特有の焦りや不安を感じさせるものがありました。
就業先での人間関係に悩みを抱える人も多く、仕事上の悩みをいくつも持ちながら、それを一人で抱えがちになる派遣社員の姿が浮かび上がってきます。
参考:教えてエン派遣 アンケート結果「仕事の悩み(2020年4月調査)」|en派遣
派遣定着率が低いと言われる理由
これまでのデータから、派遣社員の働き方には、下記のような課題があることがわかります。
- 派遣社員には労働移動率の高い有期雇用者が多く、数年以内にキャリアチェンジ希望の人も多い
- 派遣契約時のマッチングに問題があり「スキル不足」で派遣契約が中断となるケースも多い
- 多くの派遣社員は派遣の就業形態特有の悩みを抱えながら就労しており、働きづらさを感じている
「派遣社員の定着率が低い」と言われるのは、これら派遣社員特有の課題を背景に、派遣社員が派遣先の想定よりも早期に離職するケースが多いからと考えられるでしょう。
派遣定着率の実態把握には「期間内定着率」を確認
派遣定着率は、ベンチマークとする対象期間を決め、派遣先ごとの「期間内定着率」で実態を把握することが重要です。「期間内定着率」の計算方法は下記の通りです。
去年1年間を対象として、3ヶ月(ベンチマーク)の定着率を見る場合。
- 去年1年間のA社A部署へのの派遣人数合計は20名
- うち、就業開始から3ヶ月以内に自己都合退職した人数は5名
- (1-②÷①)*100で3ヶ月以内の定着率を算出する
- 3ヶ月以内の期間内定着率は75%。離職率は25%。
期間内定着率の良し悪しは各社がこれまでの実績をもとに判断するものになりますが、同じ部署で4分の1が3ヶ月以内に離職しているとすると改善の余地はありそうです。
派遣定着率が低いと何が起こる?
派遣した人材が派遣先で定着せず早期離職すると、派遣先にも派遣会社にもさまざまなデメリットが発生します。
派遣先では人手不足が悪化する
人手不足により生産性が落ちる
派遣先が派遣社員を採用する理由の一位は迅速な欠員補充のためです。いますぐ労働力が欲しいという派遣先で派遣社員の早期離職がでれば、派遣先は予定していた生産活動ができなくなってしまうでしょう。
参考:平成29年派遣労働者実態調査の概況 事業所調査(4) 派遣労働者を就業させる理由 |厚生労働省
周囲の負担が増える
欠員が出ると、派遣先では同じラインの労働者がそれをカバーすることになります。時間外労働が増えてチームの士気が下がったり、他の業務に支障が出ることもあるでしょう。
派遣受け入れ・育成にかかるコスト損失
派遣した社員が入社後早期に退職すると、派遣先では募集から就業開始までの時間、さらに受け入れ後の教育に欠けた時間が全て無駄になってしまいます。
人手不足の現場では労働者の間で不満や疲労感が蓄積し、更に離職者を出すという負のスパイラルに陥ってしまう可能性もあります。
派遣会社では経営に大きな影響が出る
派遣先からの評価が下がる
派遣社員が派遣契約の期間を全うせず離職した場合、派遣会社は派遣先と結んだ労働者派遣契約を履行できない状態となります。自社が提案した派遣社員の定着率が悪い状態が続くと、派遣先からの評価は下がり、取引のチャンスを失うこともあるでしょう。
予定していた売り上げが立たない
派遣会社の売り上げは、派遣社員が就業した対価である派遣料によって成り立っています。派遣先があっても、派遣社員が就業していなければ派遣先から派遣料は支払われません。売り上げの見込みに大きな穴が開くことになります。
人材派遣までにかけたコストの回収ができない
派遣会社は、派遣社員を派遣するまでに、さまざまな営業活動を行なっています。派遣社員が定着しない場合、事前に行った「派遣先開拓」「案件の掘り起こし」「人材の募集」や「提案」など全ての活動に欠けたコストの回収ができないことになります。
派遣定着率を改善する方法
派遣先も派遣会社にも大きな痛手となる派遣社員の早期離職を食い止め、派遣定着率を改善するには、定量的な原因分析に基づいたアプローチが有効です。
具体的な方法を3つ紹介します。
- 勤務不良や欠勤の改善を行う
- 精度の高いマッチングを行う
- 派遣先・派遣会社の連携によるフォローを行う
それぞれについて説明します。
勤怠不良や欠勤の改善を行う
派遣社員が就業後1週間を立たずに欠勤をすると「辞めてしまうかも」と思う派遣先担当者は多いのではないでしょうか。その肌感覚は間違っておらず、人材派遣大手のランスタッドの調査では、欠勤と派遣社員の離職率に相関関係があることがわかっています。
図の出典:「派遣社員が定着しない」を解決する3つのヒント|ランスタッド
欠勤や勤務不良の背後には、前項で取り上げたような派遣社員が抱える「働きづらさ」や悩みがあります。当該派遣先に就業する社員を対象に、欠勤につながる原因を定量的に分析し、そこにアプローチする対策が求められます。
- テレフォンアポインターの業務
- 就業3ヶ月以内の欠勤率が高く、期間内定着率も低かった
- 同じ職場に就労している派遣スタッフ全員に、仕事や職場環境等のヒアリングを行なった
- 時間内に終わらないタスクが課されている上、他の派遣会社からの社員の方が時給が高いことが噂になっており、不満やモチベーションの低下につながっていることがわかった
- 派遣先に状況を伝え、次回契約以降の待遇について相談することができた
精度の高いマッチングを行う
派遣契約の中断理由について調査した厚生労働省のデータでは、中断の理由の約半数が「派遣労働者の技術・技能に問題があった」でした。
しかし、派遣契約が一度成立しているからには、書面上ではスキルのマッチングに問題はなかったはずです。ミスマッチとなった理由は、派遣会社が派遣先の業務で実際に必要とされるスキル要件を把握できていなかったことが挙げられます。
この場合もヒアリングや離職タイミングなどから原因を分析し、どの業務でどのようなスキルの不一致が起きているか確認する必要があります。
- 未経験可という条件だったが、派遣社員・派遣先のヒアリングの結果、実際は派遣先の指揮命令者が不在となることが多く、業務が進めにくい状況だったことがわかった
- 派遣社員のスキル条件を再設定する、もしくは派遣先の体制が変更可能か検討する
- 求人票では軽作業という言葉で業務を説明していたが、いくつかの作業について何名かが「体力がもたない」と感じていることがわかった
- 求人をかける際、またマッチングの際に業務の内容を正確に説明することにし、また体力に自信のある人を優先的に派遣することにした
派遣先・派遣会社の連携によるフォローを行う
派遣定着率の改善には、派遣会社と派遣先の連携が重要です。ちょっとした勤怠不良や業務への困り感などの要素は、派遣先との情報交換で早期に発見できれば、離職を食い止めることも可能です。
初回派遣契約では、派遣会社は派遣社員を慎重にフォローします。勤務の前、勤務初日当日、勤務開始後1週間などに定期的に連絡を取って、派遣社員本人のフォローをしている会社は少なくありません。
しかし、派遣社員から見れば、派遣会社も雇い主です。派遣先で問題があっても、遠慮や不安があり、自分の状況を全て打ち明けることができないこともあります。
一方、派遣先からは派遣社員の職場での実際の様子を聞くことができます。「昨日突然欠勤した」「数回、数分だけ遅刻した」「思ったよりも仕事が遅く残業している」「1週間経つが、他の社員と打ち解けない」など、派遣先の現場で留まりがちな情報こそが、本人の困り感に気が付くきっかけになります。
派遣社員のフォローは派遣会社が積極的に派遣先と連携して行うことで、より効果を増すでしょう。
派遣定着率の改善による3つのメリット
派遣定着率の向上または改善は、派遣会社にメリットをもたらします。具体的には下記3つが挙げられるでしょう。
- 求職者信頼を得ることができる
- 顧客から信頼を得ることができる
- 集客につなげることができる
それぞれについて説明します。
派遣社員から信頼を得ることができる
派遣定着率を改善する取り組みは、派遣社員の満足度を高めることにもつながります。
派遣会社大手のen派遣のアンケートによれば「派遣会社を選ぶ際に気になるポイント」の1位は「フォローの手厚さ」でした。
派遣先と連携して派遣社員を適切なタイミングでフォローすることができれば、派遣社員の早期離職のリスクを下げることができるのに加え、社員からも信頼を寄せてもらうことができるでしょう。
参考:教えてエン派遣 アンケート結果「派遣会社選び」(2022年)|en派遣
顧客から信頼を得ることができる
派遣定着率を高めることができれば、顧客である派遣先からの信頼を得ることができます。派遣社員の早期離職が目立つ場合は、派遣社員の「働きづらさ」をよく理解している派遣会社の方から派遣先の実態把握を行うことで、課題が見えてくる場合があります。
派遣先ごとの期間内定着率などの分析を通じ、定着率のアップダウンにも注意しておくといいでしょう。
集客につなげることができる
派遣定着率の改善に向けた取り組みがうまくいけば、新規派遣先の開拓や求職者の募集など、集客の面でもアピールにつなげることができます。
エン派遣のアンケート結果では、派遣会社を選ぶ際、応募する前に派遣会社の情報を調べる人は全体の78%でした。また、調べる方法は「派遣会社のホームページ」が83%となっています。
派遣会社のホームページ、採用サイトなどで、実際に行っている派遣社員定着率向上の取り組みなどを取り上げれば、顧客や求職者の信頼獲得につながる重要なコンテンツになるでしょう。
参考:教えてエン派遣 アンケート結果「派遣会社選び」(2022年)|エン派遣
まとめ:派遣定着率は原因分析で改善できる
本記事では、派遣定着率についてデータを用いて概要を説明しました。派遣会社が成長するには、既存事業の安定と新規事業を軌道に乗せる事が必要です。派遣の定着率が低い場合は、実態を把握した上で原因の分析を行い、事実に基づいた改善の取り組みを行いましょう。
一方、派遣の定着率改善には、業務内容にあう求職者の集客も大きなポイントとなります。狙ったスキルを持つ求職者を素早く集客するには、Webを使用した採用マーケティングが欠かせません。
自社にノウハウがない場合や業務効率化を図りたい場合は、外部サービスの活用が有効です。集客力を強化し、精度の高いマッチングが可能になり、定着率の維持・改善にも役立つでしょう。