SNSを活用した採用は、ソーシャルリクルーティングまたはソーシャルネットワークリクルーティングと呼ばれ、今注目の採用手法です。
個人で利用するには身近になってきたSNSですが、採用担当として始めるとなると勝手が違いますよね。まずはSNSの得意・不得意を知り、現在の採用活動にどのように取り込むか検討したいものです。
この記事では、SNS採用と従来の採用活動との違い、メリット・デメリットを紹介します。
また、SNSを使用する上で最も注意したい「炎上リスク」についても、事例を交えてどうすれば防ぐ事ができるのか考えていきます。
SNS採用の導入を検討中の方はぜひ参考にしてくださいね。
SNS採用の効果や活用法について、こちらの記事で詳しく解説しています。
SNS採用の特徴と効果を出すポイント
SNS採用は、広義の意味では「SNSを取り入れた採用活動」、狭義の意味では「SNSを使用して潜在候補者と直接コミュニケーションを行い、求人し、応募まで行うプロセス」です。
SNS採用と従来の採用方法の違い
SNS採用の特徴的な効果は、潜在的候補者層を発掘できることです。
企業の発信コンテンツに魅力があれば、SNS内で広く共有・拡散される可能性があります。これまで接点のなかったユーザーへ情報が届くことで企業の認知度upが狙え、フォロワーとなってもらえれば、定期的に情報を配信することができます。フォロワーは、企業のファン、求人時の潜在的な候補者層とも言えます。
また、将来的に十分な潜在的候補者層が集まれば、企業がSNSを通じて候補者に直接求人をかけることも可能でしょう。SNSの強みは「双方向コミュニケーション」のプラットフォームでもあるところです。企業が人材とSNSを通じて直接コンタクトを取り、スカウトや選考参加依頼を行うこともできます。
労働人口が減少している日本の採用市場において、今後有効な新しい採用手段です。
SNS採用の企業における活用方法
現在SNSを採用活動に活用している企業では、主に下記のような活用方法があります。
・企業の認知度を上げるための情報発信ツールとして活用
活用例:Facebookで「企業アカウント」を運用し、企業の様々な情報を更新する
・採用専用の特設サイトとして活用
活用例:Twitterで企業公式の「2022新卒採用アカウント」、「エンジニア中途採用アカウント」等を運用し各種情報の発信を行う
・求職者と直接コミュニケーションを取るツールとして活用
活用例:Lineのビジネスアカウントを利用して候補者プールを作り、直接連絡の手段にする
SNS採用で効果を出すために必要なこと
SNS採用で効果を出すには、自社の採用候補者層がよく使うSNSを選ぶ必要があります。
プラットフォームごとの特徴も把握し、自社の採用戦略に合ったSNSを選定しましょう。
SNSプラットフォーム | 国内の普及状況 | 特徴 |
---|---|---|
LINE | 全年代での普及率90%以上 | アカウント間の1対1コミュニケーションが得意 |
20代で80%に届く普及率 | リツイートという機能で高い拡散力を持つ | |
10代の普及率は低いが20代〜40代で普及 | 登録アカウントの実名性が最も高い | |
10代〜30代の若手世代で普及率が高い | ハッシュタグ機能で拡散も見込める | |
TikTok | 10代の普及率が近年爆発的に増えている | 短い動画による投稿を共有するのが特徴 |
年齢層についても考慮する必要があります。総務省の調査によると、コミュニケーション系メディアの行為者率は、10代~40代でSNSが1位となっていますが、50代以上ではメール行為者率の方が高いことがわかっています。
そのため、50代以上の採用を行う場合は、SNS以外も積極的に利用する必要があるでしょう。
参考:総務省「令和2年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(概要)」
SNS採用活動のメリット・デメリット
SNSを活用した採用活動には、従来の採用手法にはない様々なメリット・デメリットがあります。
- 若年層へのアプローチができる
- 潜在的候補者層へのダイレクトコンタクトができる
- 企業のブランディングツールになる
- ミスマッチ・アンマッチの防止
- 採用活動のコスト低減
- 運用工数がかかる
- 事前に十分な運用計画を立てる必要がある
- 短期的な採用に不向き
- 炎上リスクの大きさ
SNS採用活動のメリット
まずはメリットから見ていきましょう。
SNS採用のメリット①若年層へのアプローチができる
若年層はSNSを日々の情報収集で利用しています。SNSでの情報配信はそんな若年層に自然にアプローチする方法の一つです。
新卒採用では、学生たちは常にSNSを使って就活情報を共有しています。2022年の新卒採用データでは「就職活動中にSNSを活用した」と回答した学生の割合が急上昇しました。
SNSでの情報発信は若年層にとって、目に触れる機会も多く、気軽に読んでもらえます。企業に興味を持ってもらうきっかけとして利用することができるでしょう。
SNS採用のメリット②潜在的候補者層へのダイレクトコンタクトができる
SNSの最大の特徴は、シェアやリツイートなどによる「情報の拡散力」です。
発信したコンテンツが話題になり「こんなの知ってる?」「これ見てみなよ」とシェアされることで、これまで接点のなかったユーザーにも知ってもらうことができます。
また、フォロワーになって貰えば、ダイレクトに定期的な情報発信ができます。今、就職・転職活動をしていない、もしくは考えていなかったユーザーも、その企業の求人が出た際には興味を持つ可能性があります。
SNSは中長期的な運用を行うことでフォロワーを増やし、この「潜在的候補者」の母集団形成が狙えます。
SNS採用のメリット③企業のブランディングツールになる
SNSは、会社のソフト面の情報発信が得意なツールです。
会社HPや採用HPよりもユーザーに近い位置から、会社理念、働き方、社風など企業のカルチャーが伝わるような情報を発信できます。
働きやすい職場環境への取り組み紹介、海外共同プロジェクトの様子、新卒入社社員の仕事レポートなど、社員の声が届くようなコンテンツも人気です。写真や動画を使ったオフィスの紹介や自然豊かな場所にある企業であれば地域の紹介なども、企業イメージを持ってもらうのに効果的でしょう。
SNS採用のメリット④ミスマッチ・アンマッチの防止
SNSで企業と候補者が繋がれば、企業側は候補者の発信を見ることができます。人々はSNSで日常の様子や興味関心、経験、指向性などを発信しています。候補者のパーソナリティーへの理解を深め、自社の社風とマッチするか検討することができます。
また、企業側は現役社員の投稿などを活用することで、企業で働くイメージをより具体的に持ってもらい、ミスマッチ・アンマッチの防止につなげることができます。
SNS採用のメリット⑤採用活動のコスト低減
SNSは、基本的に無料のプラットフォームです。純粋にSNSだけを活用して採用に至った場合、実質コストは採用担当者の工数のみとなるため、大幅なコスト減が見込めます。
既存の採用媒体とSNSを組み合わせて採用を行う場合も、様々なメリットが初期投資なしで得られるため、中長期で見た場合はコスト減となるでしょう。
SNS採用活動のデメリット
SNS採用活動のメリットを見てきましたが、SNS採用には不得意分野・デメリットもあります。
SNS採用のデメリット①運用工数がかかる
SNSでは日々大量の情報が発信されています。ユーザーには新着情報から表示されるため、一定の更新頻度がなければ投稿はすぐに埋もれ、見てもらえません。
また、SNSは双方向的なコミュニケーションが本質的なあり方です。そのため、企業の発信に誰かがコメント等のアクションをした場合、企業側もリアクションするのがマナーとなります。コミュニティのマナーを破れば企業のイメージダウンに繋がる恐れがあるため、注意が必要です。
日々の情報発信とリアクションへのフォロー、コンテンツ企画や発信情報チェックもあるため、全体でかなりの運用工数がかかります。
SNS採用のデメリット②事前に十分な運用計画を立てる必要がある
SNSで発信するコンテンツは、採用ターゲットの興味を惹く内容であることが大切です。プラットフォームによっては画像や動画の用意もあり、日々の更新を継続するためには、事前に十分な計画が必要となってきます。
採用ターゲットの興味をつかむコンテンツにはどんなものがあるか、自社コンテンツで有効なものは何か、事前に計画しておきましょう。
SNSを巡る動向は日々変化しているため、事前の十分なコンテンツプランニングと効果測定によるプランの見直しも肝心です。
SNS採用のデメリット③短期的な採用に不向き
SNSは短い情報発信を日々重ね、長期的に運用することで情報の拡散を狙います。
また、単に長期運用すればいいというだけではなく、フォロワー数を増やして行かなければ効果を期待できません。フォロワーのいない状態で、求人情報を発信してもほとんど誰の目にも留まらないからです。
SNSでしっかりと自社の魅力を伝えてフォロワーを増やし、採用候補者層へのアプローチを継続することで中長期的な採用へと繋がります。
SNS採用開始直後の即効性は期待できませんが、中長期的なメリットを狙っていきましょう。
SNS採用のデメリット④炎上リスクの大きさ
社会問題にもなっている「SNS上での炎上」。情報共有がしやすく、拡散性が高いというSNSの特徴によって、悪いイメージのついた情報も一瞬で広まってしまいます。
SNSへの投稿は不特定多数の人の目に触れるため、注意していても、意図しないところで批判を買ってしまうリスクが避けられません。そして、その批判への対応次第では雪だるま式に批判が膨らみ、炎上となってしまいます。
企業アカウントや企業採用アカウントは社名を背負っていますので、炎上リスク低減の仕組みが必要です。
実際にSNS採用活動で「炎上」してしまった事例
炎上リスクはどうすれば低減できるのか。実際の「炎上」事例から見てみましょう。
SNSを使用した採用活動での「炎上」事例
2022年2月、企業採用アカウントの炎上がメディアでも話題になりました。
その引き金となったのは、大炎上となった、ある採用担当者のTwitter上での発信です。
「新卒採用担当を採用したいと思い、沢山の方にご応募いただいているのですが、給与や待遇にこだわりのある人とは働きたくないのです。。。私は、会社の顔となる人事だからこそ、待遇/給与で会社を選ぶ方と働きたいとは思わない。」
1月31日夜に配信されたこの投稿は、約3日で8000件以上もリツイートされ、そのうち批判的な引用リツイートが半数以上を占めました。
SNS採用活動での炎上がもたらす大きな傷
この投稿には「Twitterの投稿は切り取られやすいと思うが頑張って!」という応援のコメントも合った一方、「従業員搾取の典型的な考え方」等の批判の声が多くを占めました。
後日、社員は「あくまで私の意見」だったと釈明しましたが、この企業が出していた求人情報の待遇までが話題となり、こちらにも批判的なツイートが集まりました。
社員のアカウントは企業の実名も入っていたため、メディアによっては社名を含めての報道となったところもあり、企業イメージへの影響も避けられない結果となってしまいました。
SNS採用活動における最大のリスク「炎上」はなぜ起こる?
では、なぜこのような「炎上」は起こるのでしょうか?
SNSの炎上は「何気ない投稿」から始まる
SNSで炎上する流れは以下の通りです。
- 何気ない投稿
- 違和感を持った人が批判
- 批判に同調した人が拡散
- 「トレンドに上がる」「メディアが取り上げる」など、さらに拡散
- 「投稿から遠い人」や「SNSをやっていない人」にも悪評が届く
- 炎上する
初めは「悪気ない」「批判が来るとは予想できない」という何気ない投稿から始まるケースがほとんどです。また、「一部の文章が切り取られる」「画像の一部に注目される」など、投稿内容のメインではない
ですが、一部の人による批判が拡散され始めると、同調圧力でさらなる批判・拡散が集まり、手が付けられなくなります。
そして、メディアに取り上げられたり、著名人が反応したりすると、「投稿から遠い人」「SNSをやっていない人」まで広がる。これがSNSでの炎上の流れです。
炎上は拡散力があるSNSで起こりやすい
株式会社コムニコの調査によると、炎上元媒体の大半をTwitterが占めていることがわかります。
(出典:株式会社コムニコ「2021年SNS炎上レポート」)
Twitterは拡散力のあるSNSです。「多くの人の目に留まる」「話題になりやすい」というメリットがある半面で、炎上のリスクも持ち合わせています。
Twitterへの投稿が火種となり、引用リツイートやリプライなどで批判が集まることで「炎上」してしまいます。
また、拡散力があることに加えて、「気軽に投稿できる」「文章での投稿なので、違う意図で受け取られてしまう」といったことも、Twitterが炎上しやすいSNSである原因です。
SNS採用での炎上は「上から目線の投稿」が多い
SNS採用での炎上は「上から目線の発言」が火種になるケースが多くあります。
先ほど例に出したTwitterでの発言以外にも、「上から目線の発言」で炎上した例として以下があります。
「採用は”採ってはいけない人”を見極める仕事だ。最近意味がわかって来た。」
Twitterにて
「ボーナスは『毎月受け取る月給以上の結果を出した人』にしか支給できません」
Instagramのストーリーズにて
人事担当者は「人を評価する仕事」をしているが故に、「上から目線の投稿だ!」と捉えられてしまうことから「炎上」に繋がりやすいのです。
対応によってさらなる炎上を招くことも
1度炎上をしてしまうと、自力で止めるのは困難です。
炎上の対応によっては、「不誠実だ」「反省の色が見られない」「言い訳に聞こえる」など、さらなる炎上を招いてしまう場合もあります。
また、「過去の投稿を掘り返されてさらに炎上」「Twitter以外のSNSもチェックされて炎上」「HPや求人案内までチェックされて炎上」など、当該投稿以外の部分まで巻き込んで炎上することも少なくありません。
炎上を起こさないためにも、SNS採用をするにあたって事前に対策することが大切です。
SNS採用活動での炎上を防ぐためにできること
SNSでの発信には十分なネットリテラシーが必要です。SNSの運用を始める前に、トラブル予防ための事前対策をしっかりと行いましょう。
また、SNSで炎上するのは、SNSで発信された内容に限りません。
面接の内容、電話対応、メール返信等、全ての企業と候補者のやりとりはSNS上で共有され、炎上のきっかけになる可能性があります。
SNSの登場以来、採用・就職活動には従来の「企業が選ぶ側、応募者は選ばれる側」という構造にパラダイムシフトが起きています。
採用担当者や企業は「適切な候補者を選ぶ」ではなく、「最適な候補者に選ばれる」ことをミッションとして活動を行う必要があるのかもしれません。
思わぬSNS炎上を防ぐために知っておくべき【就活生の価値観】
近年の就活生は「仕事よりも私生活」「やりがいよりも給与や待遇」という価値観を持つ人が増えています。思わぬSNS炎上を防ぐためには、こういった近年の就活生の価値観を知っておく必要があります。
なぜなら、SNS採用での炎上は「何気ない投稿」が火種になってしまうことが多く、「まさかこの投稿が炎上するとは思わなかった」というケースが多いためです。
特に近年はSNSの影響でさまざまな価値観が現れており、変化も激しい時代です。変化に合わせて発信内容も変えていく必要があるでしょう。
ここでは、日本生産性本部「新入社員意識調査」を参考に、「近年で増えた価値観」「減った価値観」を紹介していきます。
<増えた価値観>
- 働く目的は「楽しい生活をするため」
- 働き方は「人並みで十分」
- 仕事よりも私生活を重視したい
- 職場の上司、同僚が残業していても、自分の仕事が終わったら帰る
- 仕事はお金を稼ぐための手段であって面白いものではない
- 職場の同僚、上司、部下などとは勤務時間以外はつきあいたくない
<減った価値観>
- 働く目的は「自分の能力を試したいから」
- 働き方は「人一倍働きたい」
- 若いうちは進んで苦労すべき
- あまり収入がよくなくても、やり甲斐のある仕事がしたい
- 面白い仕事であれば、収入が少なくても構わない
- 人間関係では、先輩と後輩など上下のけじめをつけることは大切なことだ
これらの傾向を見ると、人事担当の ”給与や待遇にこだわりのある人とは働きたくない” ”ボーナスは『毎月受け取る月給以上の結果を出した人』にしか支給できません” という発信が炎上してしまったのも、近年の就活生との価値観が合わなかったことが理由かもしれません。
近年の就活生は「仕事よりも私生活」「やりがいよりも給与や待遇」という価値観を持つ人が増えているため、こういった傾向に合わせてSNS発信を進める必要があるでしょう。
まとめ:SNS採用のメリット・デメリットをよく理解して炎上対策
この記事では、SNS採用の特徴や効果、メリット・デメリットについて解説しました。また、SNSの炎上リスクについても、実際の事例を見ながら対応策を紹介しました。
ソーシャルメディアやSNSは今後一層、私たちの生活に欠かせないものになるでしょう。メリット・デメリットをよく理解し、積極的に自社の採用戦略に取り入れたいものですね。