定着率を上げる7つの方法と計算式|離職率との違い・業界平均・大手の事例まで完全解説
「採用してもすぐに辞めてしまう」「定着率を上げたいが、何から手をつければいいかわからない」——人事担当者から最も多い相談の一つです。厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)によれば、日本企業全体の入職率は15.4%、離職率は15.0%で、入職と離職がほぼ拮抗しています。つまり採用しても同じだけ辞めていくのが日本企業の平均的な姿です。
定着率の改善は、採用コストの削減・組織知の蓄積・採用ブランドの向上といった複数の経営指標に直結する重要施策です。一方で、「給与を上げれば解決する」「教育制度を充実させれば良い」といった単発施策では成果が出にくいのも事実です。
この記事では、採用支援を10年以上担当してきた後藤陽介が、定着率の正しい計算式・業界別平均値・離職率との違い・改善方法7つ・大手企業の事例を、データと実務目線で解説します。
この記事でわかること
- 定着率の正しい計算式と「3年定着率」「1年定着率」の使い分け
- 業界別の定着率平均(製造業・IT・小売・宿泊飲食など)
- 定着率と離職率の違い・どちらをKPIにすべきか
- 定着率が低くなる5つの原因
- 定着率を上げる7つの実践施策
- 大手企業の取り組み事例(トヨタ・サイバーエージェント・楽天など)
- 活用できる助成金・補助金
定着率とは?正しい計算方法と種類
定着率とは、「ある期間で入社した社員のうち、一定期間後にも在籍している割合」を示す指標です。組織の人材維持力を測る基本KPIで、採用効率や教育効果の評価に使われます。
定着率の計算式
定着率(%) = (N年後に在籍している人数 ÷ 入社時の人数) × 100
たとえば、2021年4月に新卒10名を採用し、2024年4月時点で7名が在籍していれば、3年定着率は70%となります。
「1年定着率」「3年定着率」「5年定着率」の使い分け
| 指標 | 主な活用シーン | 注意点 |
|---|---|---|
| 1年定着率 | オンボーディング・初期教育の評価 | 業界・職種で大きく差が出る |
| 3年定着率 | 中堅育成・新卒採用品質の評価 | 厚労省データで比較しやすい |
| 5年定着率 | キャリアパス・組織風土の評価 | 長期トレンド分析に最適 |
採用直後の課題分析には1年定着率、採用戦略全体の評価には3年定着率を使うのが基本です。
新卒定着率と中途定着率は分けて見る
新卒は入社後の研修と慣れが必要なため1〜2年で離脱しやすい傾向があります。一方、中途は前職経験から「合わない」を早期に判断するケースが多く、入社半年以内の離脱率が高い傾向です。両者を分けて測定し、原因分析もそれぞれ行いましょう。
定着率と離職率の違いと使い分け
定着率と離職率は表裏一体ですが、計算対象と用途が異なります。
| 項目 | 定着率 | 離職率 |
|---|---|---|
| 計算対象 | 特定期間に入社した人 | 期間内全社員 |
| 計算式 | 在籍人数 ÷ 入社人数 × 100 | 離職人数 ÷ 期初社員数 × 100 |
| 主な用途 | 採用品質・育成評価 | 組織健全度の経営指標 |
| 厚労省統計 | 「新規学卒就職者の離職状況」(裏返しで定着率算出) | 「雇用動向調査」 |
採用責任者は定着率を、経営層・労務責任者は離職率をKPIに置くのが一般的です。
業界別の定着率(3年定着率)平均
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和2年3月卒の3年離職率データ)から、3年定着率の業界別平均を整理します。
| 業界 | 3年定着率(高卒) | 3年定着率(大卒) | 傾向 |
|---|---|---|---|
| 建設業 | 56.9% | 71.0% | 新卒は3年で約3割離職 |
| 製造業 | 71.4% | 80.5% | 業界トップクラスで安定 |
| 情報通信業(IT) | 62.8% | 78.0% | 大卒は安定、高卒は離脱多 |
| 運輸業・郵便業 | 59.4% | 74.4% | シフト勤務で高離脱 |
| 卸売業・小売業 | 53.4% | 61.7% | 離脱率が高い業界 |
| 金融業・保険業 | 59.7% | 78.4% | 大卒は比較的安定 |
| 宿泊業・飲食サービス業 | 38.6% | 48.5% | 業界で最も離脱が深刻 |
| 医療・福祉 | 54.0% | 61.0% | 労働強度の課題 |
宿泊業・飲食サービス業は3年で大卒の半数以上が離脱する業界トップの「定着難業界」です。一方、製造業は労働環境が比較的安定しており、定着率が高水準を維持しています。
定着率が低くなる5つの主要原因
定着率を改善するには、まず原因の特定が必須です。退職者アンケートと厚労省調査から、定着率を下げる要因トップ5を整理します。
原因①:人間関係のストレス(上司・同僚との不和)
退職理由の常連で、特に若手層で「上司と合わない」「ハラスメントを受けた」「チーム内で孤立した」という訴えが多いです。これは部門単位で発生しがちで、人事が把握する前に離職が進むことが多い厄介な問題です。
原因②:給与・待遇への不満
競合他社や同業他社と比較したときの相対的な低水準感が、退職判断の最後のひと押しになります。「同期と給与差がある」「成果に対する評価が反映されない」「昇給ペースが遅い」がよくある不満です。
原因③:労働時間・休日のミスマッチ
慢性的な残業、休日出勤、シフトの不規則性が定着率を直接下げます。とくに育児・介護を抱える層で、柔軟な働き方ができないことが転職の決定打になります。
原因④:キャリア展望の不透明さ
「この会社で5年後どうなっているかイメージできない」という不安が、特に中堅以降の離職を加速させます。明確なキャリアパス・スキル習得機会が見えないと、若手・中堅層は転職市場に目を向け始めます。
原因⑤:採用時のミスマッチ
採用時に業務内容・社風・処遇を正確に伝えていないと、入社後の現実とのギャップから早期離職につながります。「思っていた仕事と違う」「カルチャーが合わない」は中途採用で特に多い退職理由です。
定着率を上げる7つの実践施策
施策①:オンボーディングを「3ヶ月プログラム化」する
入社初日からの3ヶ月間を、体系的なオンボーディングプログラムとして設計します。
| 期間 | 主な活動 | 担当 |
|---|---|---|
| 1週間目 | 会社理解・ツール習得・メンター紹介 | 人事+メンター |
| 1ヶ月目 | 業務スキル研修・1on1面談 | 上司+メンター |
| 2ヶ月目 | OJT・スキル評価・キャリア面談 | 上司+人事 |
| 3ヶ月目 | 本配属判断・継続育成計画策定 | 経営層+上司+人事 |
面談は「形式的な確認」ではなく、本人の不安・悩みを言語化させる場として運営します。1on1スキルが弱い管理職には事前研修が必要です。
施策②:教育制度(研修・eラーニング)を充実させる
「自分のスキルが伸びている実感」が定着率を大きく左右します。階層別研修・職種別研修・自己啓発支援(書籍購入補助・資格取得補助)を制度化しましょう。人材開発支援助成金を活用すれば、研修費用の最大75%が助成されます。
施策③:柔軟な働き方を認める(リモート・時短・フレックス)
テレワーク・時短勤務・フレックス制・週休3日制など、ライフスタイルに合わせた働き方を導入することで、育児・介護世代の離職を抑制できます。とくに女性社員の定着率に直結する施策です。
施策④:給与・評価制度を見直し、納得感を高める
絶対額の引き上げが難しい場合は、評価基準の透明化・成果連動型賞与・業界水準の定期ベンチマークを実施します。「自分が正当に評価されている」という納得感が、給与額そのものより定着率に効くケースが多いです。
施策⑤:キャリアパスを明示し、ロールモデルを社内に配置する
3年後・5年後・10年後のキャリアパスを人事制度として可視化します。同時に、社内のロールモデル社員を「キャリアメンター」として全社に紹介することで、若手の長期キャリア意欲が高まります。
施策⑥:採用ミスマッチを減らす「リアル情報の事前開示」
採用時に業務の大変な側面・残業の実態・既存社員の本音インタビューなどを開示します。短期的には応募率が落ちる可能性がありますが、入社後の早期離職が大幅に減り、中長期的な採用効率が向上します。
施策⑦:従業員サーベイを定期実施し、改善サイクルを回す
四半期ごとのパルスサーベイ(短い従業員調査)で組織の課題を早期発見し、改善アクションを実行します。代表的なツールはWevox、モチベーションクラウド、Geppoなど。月額1人あたり300〜800円程度で導入できます。
定着率向上に取り組む大手企業の事例
トヨタ自動車|「終身雇用+自己選択型キャリア」のハイブリッド
従来の終身雇用型を基盤としつつ、社内公募制度・キャリア面談制度を強化することで、若手の自律的キャリア形成を支援。3年定着率は90%超を維持しています。
サイバーエージェント|「あした会議」と異動希望制度
毎年新規事業を社員提案で立ち上げる「あした会議」と、半年に一度のキャリア希望ヒアリングで、社員の挑戦意欲を組織内で吸収。離職率8%前後と、IT業界では低水準を維持しています。
楽天|「Englishization」と社内グローバル人材育成
社内公用語の英語化を契機に、グローバル人材の定着・育成を強化。社員のスキル成長と国際機会の提供を組み合わせて、離職率を抑制しています。
無印良品(良品計画)|店舗社員の本社採用化と長期キャリア設計
店舗スタッフのキャリアを本社・海外・MD(マーチャンダイザー)まで広げるキャリアパスを整備。小売業で珍しい高い定着率を実現しています。
定着率を上げない選択肢|「離職を前提とした組織設計」
すべての企業が定着率を高くする必要はありません。業界特性・経営方針によっては「離職を前提とした組織設計」のほうが合理的な場合もあります。
選択肢①:採用・求人のミスマッチをなくし、入れ替わり前提で運用
飲食・小売など離職率が高い業界では、採用効率と新人育成を高速化することで離職を前提に組織を維持する戦略が成立します。動画マニュアル・タスク標準化・AI採用などを活用すれば、採用〜戦力化を1〜2週間に短縮できます。
選択肢②:誰でもすぐ業務を行えるシステム化・標準化
業務のマニュアル化・自動化・タスク細分化で「人に依存しない仕組み」を作れば、定着率の影響を最小化できます。製造業のライン作業、コールセンター、データ入力などで効果的です。
選択肢③:派遣・業務委託・スポットワーカーの活用
正社員雇用にこだわらず、派遣・業務委託・スポットワーカー(タイミー・スキマバイト)を組み合わせることで、繁閑差や離職リスクを吸収できます。コア業務は正社員、周辺業務は外部リソースという役割分担が一般的です。
定着率向上に活用できる助成金
キャリアアップ助成金
有期雇用社員の正社員転換、賃上げ、健康診断制度の導入など、定着率向上施策に直結する取り組みに対して支給される助成金です。1人あたり最大57万円(中小企業)。
人材開発支援助成金
社員のスキル研修費用と賃金の一部を助成。教育制度の充実を後押しする制度で、対象経費の45〜75%が補助されます。
業務改善助成金
事業場内最低賃金の引き上げと設備投資に対する助成金。賃金水準の底上げを実施したい中小企業に向いています。最大600万円。
働き方改革推進支援助成金
テレワーク導入・労働時間短縮・年次有給休暇取得促進などの働き方改革施策に対して支給される助成金。最大730万円。
定着率改善のロードマップ【3ヶ月→6ヶ月→1年】
| 期間 | 主な施策 | KPI |
|---|---|---|
| 1〜3ヶ月 | 退職者面談データ整理、原因分析、施策優先順位決定 | 原因仮説の確定 |
| 4〜6ヶ月 | オンボーディング再設計、1on1制度導入、評価制度見直し着手 | 新人面談100%実施 |
| 7〜12ヶ月 | サーベイ運用、研修制度導入、柔軟な働き方の正式運用 | 定着率5〜10pt改善 |
よくある質問(FAQ)
- Q. 定着率の目標値はどれくらいに設定すべきですか?
- A. 業界平均より5〜10ポイント高い水準を中期目標にするのが現実的です。たとえば製造業なら3年定着率85%、宿泊飲食業なら55%が一つの目安。経営層と人事で「業界比較」「3年計画」「達成手段」をセットで議論しましょう。
- Q. 給与を上げれば定着率は本当に改善しますか?
- A. 単独施策としては効果が限定的です。給与は「不満を解消する要素(衛生要因)」であり、満足度を高める要素(動機付け要因)は成長機会・人間関係・裁量権です。給与改善とあわせて、評価制度・キャリアパス・組織風土の改善を並行する必要があります。
- Q. 中小企業でも定着率は改善できますか?
- A. むしろ中小企業のほうが施策の効果が現れやすいです。経営層と社員の距離が近く、施策反映が早いため、3ヶ月で目に見える変化を実感できるケースもあります。助成金活用で初期費用も最小限に抑えられます。
- Q. 退職者の本音はどうやって聞き出せばいいですか?
- A. 退職決定後の「エグジットインタビュー」を匿名アンケート+第三者面談の組み合わせで実施します。直属の上司ではなく人事や外部コンサルが面談することで、率直な声を集めやすくなります。
- Q. 1on1ミーティングは何ヶ月に1回が適切ですか?
- A. 入社1年以内は月1回、2年目以降は2〜3ヶ月に1回が標準的なペースです。1on1の質を高めるには、上司向けに「コーチング研修」「フィードバック研修」を実施するのがセットになります。
- Q. リモートワークを導入すると定着率は本当に上がりますか?
- A. 通勤時間が長い社員・育児介護を抱える社員には強い効果がありますが、若手社員には逆に「孤立感」を生む副作用もあります。リモートワーク導入時は、定期的な対面交流の機会(月1出社・四半期合宿など)をセットで設計してください。
- Q. 定着率の改善には何ヶ月くらいかかりますか?
- A. 早期離職(入社1年以内)の改善は3〜6ヶ月で効果が見えます。3年定着率の本格改善は3年スパンの取り組みが必要です。短期的にはオンボーディング改善、中長期的には評価・キャリア制度の改革と段階的に取り組むのが定石です。
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まとめ:定着率改善は「採用品質×組織制度×働き方」の総合戦
定着率の改善は、給与アップや研修導入などの単発施策では成果が出にくい領域です。採用ミスマッチ解消・オンボーディング設計・評価制度・キャリアパス・働き方改革の5つを並行して動かしてこそ、3年定着率を5〜10ポイント引き上げることが可能になります。
- 定着率の計算式は (在籍人数 ÷ 入社人数) × 100。1年・3年・5年で使い分け
- 業界平均と自社比較から目標を設定し、経営KPIに据える
- 退職原因トップ5(人間関係・給与・労働時間・キャリア・採用ミスマッチ)に対応した施策を打つ
- オンボーディング3ヶ月プログラム + 1on1制度 + サーベイ運用が定石
- キャリアアップ助成金・人材開発支援助成金で実質コスト削減
- 業界特性によっては「離職前提の組織設計」も合理的
定着率は採用力・育成力・組織力の総合スコアです。短期的な数字に振り回されず、3年スパンで「離職原因をひとつずつ潰す」アプローチで取り組んでください。
定着率を上げる7つの方法と計算式を検討する前に確認したい実務ポイント
定着率を上げる7つの方法と計算式とは、採用・人事労務の目的に対して、対象者、費用、運用方法、法令面の注意点を整理しながら進めるための判断テーマです。
定着率を上げる7つの方法と計算式を判断する時は、サービス名や制度名だけでなく、採用目的、対象職種、運用担当、費用対効果、応募者対応までまとめて確認することが重要です。
筆者は採用支援・人事労務領域の記事を複数年にわたり調査し、求人媒体、採用管理システム、人事制度、労務管理の比較情報を整理してきました。筆者の確認では、実際に成果が出る企業ほど「導入前の目的」と「導入後の運用」を分けています。現場で見落とされやすい論点も、経験上、先に表で確認しておくと判断しやすくなります。
| 確認項目 | 見るべきポイント | 見落とすと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 目的 | 応募数、質、定着率、工数削減のどれを優先するか | 施策の成功基準が曖昧になる |
| 対象 | 新卒、中途、アルバイト、派遣など対象者を分ける | 求人文や選考フローが合わなくなる |
| 費用 | 初期費用、月額費用、成果報酬、運用工数を確認する | 採用単価を正しく比較できない |
| 運用 | 誰が更新し、誰が応募者対応するかを決める | 掲載後に放置され、成果が落ちる |
| 法令 | 労働条件、個人情報、公正採用の観点を確認する | 求人票や選考対応でトラブルになる |
採用・人事労務の判断では、次の公的情報も確認しておくと安全です。
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定着率を上げる7つの方法と計算式に関するよくある質問
Q. 定着率を上げる7つの方法と計算式は最初に何を確認すべきですか?
目的、対象者、費用、運用担当、法令や個人情報の確認事項を先に整理してください。条件が曖昧なまま進めると、採用効果や社内運用でズレが出やすくなります。
Q. 定着率を上げる7つの方法と計算式で失敗しやすいポイントは何ですか?
導入目的を決めずにツールや制度だけを選ぶこと、応募者対応の担当を決めないこと、求人票や選考基準を更新しないことです。
Q. 定着率を上げる7つの方法と計算式の費用対効果はどう見ればよいですか?
応募数だけでなく、有効応募率、面接設定率、採用単価、入社後の定着率まで見て判断します。短期の反応と中長期の改善を分けて確認しましょう。
Q. 定着率を上げる7つの方法と計算式を社内で進める手順は?
現状課題の整理、比較表の作成、担当者の決定、少人数での試験運用、効果測定、本格運用の順で進めると失敗を減らせます。
Q. 定着率を上げる7つの方法と計算式で法令面の注意点はありますか?
募集条件、労働条件、個人情報、採用選考の公平性に注意が必要です。制度や求人票を変更する場合は、厚生労働省などの公的情報も確認してください。
